ALIFEヒストリー
人工生命の歴史を、年表でたどる
「生命とは何か」を、「作って確かめる」ことで考えてきた約80年の流れ。
ALIFE(Artificial Life/人工生命)という分野は、1987年に旗揚げされました。ただ、そこに至る道は、もっと昔、コンピュータが生まれたばかりの1940年代から始まっています。 この記事では、人工生命がどう生まれ、どんなモデルが生まれ、研究がどう広がってきたのかを、時代順にたどります。 登場するモデルの多くは、この図鑑で実際に動かせます。読みながら、気になったものを触ってみてください。
ALIFEとは、何をする分野かWhat is Artificial Life?
生物学は、地球上に実際にいる生き物を調べます。ALIFEは、そこから一歩踏み出して、「あり得た生命(life as it could be)」も調べようとします。 コンピュータやロボット、化学の実験で、生き物らしい振る舞いを持つシステムを作り、「生命らしさは、何から生まれるのか」を、作りながら考える分野です。 1987年にこの分野を旗揚げしたクリストファー・ラングトンは、これを「私たちの知っている生命(life as we know it)」と対にして語りました。
ALIFEの研究は、大きく3つの手段に分けて語られることがよくあります。
- ソフト(ソフトウェア):コンピュータの中で生命らしいものを動かす。この図鑑が扱っているのは、これです。
- ハード(ロボット):実体のあるロボットで、生き物らしい振る舞いを作る。
- ウェット(化学・生化学):試験管の中で、生命のような仕組みを作る。
もう一つ、よく出てくる立場の違いがあります。「コンピュータの中のものは、あくまで生命のモデルだ」と考える立場(弱いALIFE)と、 「十分に生命らしい条件を満たしたなら、それ自体が生命と言える」と考える立場(強いALIFE)です。 この問いに、いまも決着はついていません。決着がつかないまま、「作って確かめる」研究が積み重ねられてきた、というのが、この分野の面白いところです。
前史(1940〜60年代):自己複製と模様の数学Before Artificial Life
ノイマンとウラム:自己複製する機械
1940年代、数学者のジョン・フォン・ノイマンは、「自分と同じものを作る機械は、理屈の上で可能か」という問いを考えていました。 同じころ、スタニスワフ・ウラムが、空間を格子に区切って、各マスが周りのマスの状態だけで次の状態を決める、という考え方を提案します。 ノイマンはこれを使い、29の状態を持つセルオートマトンの上で、自己複製できる機械の設計を示しました。 生き物が持つ「自己複製」という性質が、情報と規則だけで説明できる、と示した、画期的な仕事です。 ノイマンの仕事は、没後の1966年に、アーサー・バークスの編集で本としてまとめられました。 その後、エドガー・コッドが1968年に、状態の数を8つに減らした、より簡単な自己複製のモデルを示しています。
サイバネティクスと、亀のロボット
1948年、ノーバート・ウィーナーが『サイバネティクス』を著し、生き物と機械を、「情報とフィードバック」という同じ言葉で語る見方を広めました。 ほぼ同じ時期に、ウィリアム・グレイ・ウォルターは、光に向かって動き、電池が減ると充電器に戻る、亀のようなロボットを作っています(1948〜49年ごろ)。 ごく単純な回路から、生き物のような振る舞いが生まれる。これは、のちのロボットを使ったALIFE(ハード)の、ご先祖のひとつです。この図鑑のグレイ・ウォルターの亀で、その動きを再現できます。
チューリング:模様はどう生まれるか
1952年、アラン・チューリングは、「形態形成の化学的基礎」という論文で、2種類の物質が、反応しながら拡散するだけで、縞や斑点の模様が自然にできることを示しました。 動物の体の模様が、どうやってできるのかを、数式で説明しようとした先駆けです。 この考え方は、のちにグレイとスコットのモデル(1984年)や、ピアソンによる模様の分類(1993年)へとつながります。 この図鑑のGray-Scottは、その流れの上にあります。
そのほかの前史
- 捕食者と被食者:1920年代に、ロトカとヴォルテラが、獲物と捕食者の数が周期的に増減することを、数式で示しました。捕食者と被食者のシミュレーターは、これを個体ベースで動かしたものです。
- L-system:1968年、アリスティッド・リンデンマイヤーが、植物の枝分かれを、文字の書き換え規則で表す方法を考えました。L-systemで動かせます。
1970〜80年代:「遊べる生命」の登場Lifelike toys
1970年:ライフゲーム
1970年、ジョン・コンウェイの考案した「ライフゲーム」が、マーティン・ガードナーのコラムで紹介されて、一気に広まりました。 各マスは、「生」か「死」の2状態。周りの8マスの生きている数で、次の状態が決まるだけです。 それなのに、動き回る「グライダー」、決まった周期で点滅する「ブリンカー」、パターンを吐き出す「銃」まで現れます。 ごく単純な規則から、複雑な構造が生まれる。このことを、誰でも自分のパソコンで確かめられるようになったのが、大きな出来事でした。
▶ 動かしてみる:コンウェイのライフゲーム(解説)
1980年代:セルオートマトンで、生き物らしいものを探す
ラングトンは、1984年に、8つの状態だけで自己複製する小さな「ループ」を発表しました。ノイマンのモデルよりずっと小さく、見て分かる形で、自分の複製を作り広げます。 1986年には、単純な規則で動く「ラングトンのアリ」が発表されます。最初は不規則に動くのに、およそ1万ステップを過ぎると、突然、規則正しい「高速道路」を作り始めるのが、見どころです。 また、1980年代後半には、ブライアン・シルバーマンが、導線の中を信号が走る「ワイヤーワールド」を考えました。回路を描くと、実際に電子回路のように動きます。
▶ 動かしてみる:ラングトンループ / ラングトンのアリ / ワイヤーワールド
1986年:バイオモルフとBoids
1986年は、「見た目で生き物を感じさせる」モデルが2つ出た年でもあります。 リチャード・ドーキンスは、『盲目の時計職人』の中で、「バイオモルフ」という、枝分かれの絵を進化させるプログラムを紹介しました。人間が気に入った形を選び続けるだけで、思いもよらない「生き物」が生まれます。 クレイグ・レイノルズは、「近くの仲間と離れすぎず、ぶつからず、同じ方向に動く」という3つの規則だけで、鳥の群れのような動きを作る「Boids」を発表しました(論文は1987年)。 リーダーも、全体の設計図もないのに、群れ全体が、ひとつの生き物のように動きます。これは映画のCGにも使われ、後の群れ研究の出発点になりました。
1987年:ALIFEの旗揚げThe first workshop
1987年9月、アメリカのロスアラモス国立研究所で、ラングトンの呼びかけによる国際的なワークショップが開かれました。 正式な名前は、「生命システムの合成とシミュレーションに関する学際ワークショップ」です。 コンピュータ科学者、生物学者、物理学者、ロボット研究者など、分野の違う研究者が集まりました。 ここで、「人工生命(Artificial Life)」が、ひとつの研究分野として、名前を持ちました。 会議の記録は、1989年に『Artificial Life』という本にまとめられています。
この会議の特徴は、「生物学のための道具としてのコンピュータ」ではなく、「生命そのものの本質を、コンピュータで探る」という立場を、はっきり打ち出したことです。 ここまでに紹介したライフゲーム、自己複製のモデル、Boids、バイオモルフが、「生命らしさとは何か」を問う、ひとつの流れの中に置き直されました。
1990年代:進化する仮想生物Digital evolution
1990年代に入ると、研究の中心は、「動くものを作る」から、「勝手に進化していくものを作る」へと広がっていきます。 ヨーロッパでも会議が始まり(1990年代初頭)、学術誌『Artificial Life』も創刊されて、分野としての形が整いました。
- Tierra(トマス・レイ、1990〜91年):コンピュータの中で、自己複製するプログラムを走らせ、突然変異を起こすと、他のプログラムの複製機能を横取りする「寄生者」が現れるなど、まるで生態系のような進化が自然に起こりました。
- Avida(1990年代前半〜):Tierraの考え方を引き継ぎ、進化の実験を、厳密に管理できるようにしたシステム。デジタルの生物を使った進化の研究に、いまも使われています。
- 進化する仮想生物(カール・シムズ、1994年):コンピュータの中で、体の形と脳(制御の仕組み)を一緒に進化させ、泳ぐ生き物、歩く生き物、光を追う生き物などを、自動的に生み出しました。「体と制御を同時に進化させる」研究の先駆けです。
- Vicsekモデル(1995年):「近くの仲間の平均の向きに、少しだけノイズを加えて進む」という簡単なモデルで、群れが「バラバラな状態」から「そろって動く状態」へ、突然切り替わる様子を、物理学の言葉で示しました。
▶ 動かしてみる:ニューロエボリューション(神経の進化) / Vicsekモデル / EvoGym風の体と制御の進化
2000〜2010年代:自己組織化の再発見Self-organization everywhere
2000年代以降は、「ルールを少し変えるだけで、世界が変わる」モデルを、より精密に、より多様に調べる流れが広がります。
- NEAT(2002年):神経回路の「つながり方」と「重み」を、進化で同時に作り上げる方法。以後のニューロエボリューション研究の土台になりました。
- 粘菌(Physarum)のモデル(2010年):ジェフ・ジョーンズが、粘菌のように、エサを探しながら道をつなぎ、効率の良いネットワークを作る仕組みを、粒子の動きで再現しました。Physarumで動かせます。
- SmoothLife(2011年):ライフゲームを、「マス目」ではなく、「滑らかな連続の空間」に拡張したもの。後のLeniaの先駆けと言えます。SmoothLifeで動かせます。
- 原始粒子システム(2016年):シュミクルらが、粒子が「周りの粒子の数に応じて、向きを変える」だけの規則で、細胞のような構造や、分裂、融合まで起こることを示しました。原始粒子システムで動かせます。
2018年〜:連続化、そして学習との融合Continuous worlds and learning
近年は、2つの流れが目立ちます。1つは「世界を、より滑らかで連続的にする」流れ、もう1つは「機械学習と結びつける」流れです。
- Lenia(バート・チャン、2018〜2019年):SmoothLifeをさらに発展させ、セル、時間、状態のすべてを連続にしたモデル。ゆらゆらと動き、分裂し、「生き物のような」形が、数百種類も見つかっています。Leniaで動かせます。
- Particle Lenia(2020年代前半):Leniaの考え方を、マス目から「粒子」に移したもの。粒子たちが、エネルギーの低い場所へ動くことで、細胞のような塊を作ります。Particle Leniaで動かせます。
- ニューラルセルオートマトン(2020年):セルオートマトンの「更新ルール」を、手で書くかわりに、ニューラルネットワークに学習させる方法。一粒のセルから、絵や形が育ち、傷ついても自分で修復します。ニューラルセルオートマトンで動かせます。
- EvoGym(2021年):やわらかい素材でできたロボットの、体の形と制御を、一緒に進化させるための実験環境。シムズの仮想生物の流れを、機械学習の時代に引き継ぐものです。
ここまで来ると、「ルールを人間が書く」ところから、「ルールそのものを学習や探索で見つける」ところへ、研究が動いているのが分かります。
年表で見るTimeline
| 年 | できごと | この図鑑では |
|---|---|---|
| 1920年代 | ロトカ、ヴォルテラが、捕食者と被食者の個体数の変動を数式で表す | 捕食者と被食者 |
| 1940年代 | ノイマンとウラム。セルオートマトンと、自己複製する機械の設計 | — |
| 1948〜49 | ウィーナー『サイバネティクス』。グレイ・ウォルターの亀のロボット | ウォルターの亀 |
| 1952 | チューリング、反応と拡散から模様ができることを示す | Gray-Scott |
| 1968 | L-system(リンデンマイヤー)、コッドの自己複製モデル | L-system |
| 1970 | ライフゲームが広まる | ライフゲーム |
| 1984 | ラングトンのループ。グレイ・スコットのモデル | ラングトンループ |
| 1986 | ラングトンのアリ。バイオモルフ。Boids | ラングトンのアリ、Boids |
| 1987 | ロスアラモスで第1回ワークショップ。「人工生命」の旗揚げ。ワイヤーワールドもこの頃 | ワイヤーワールド |
| 1990〜94 | Tierra、Avida、シムズの仮想生物 | ニューロエボリューション |
| 1995 | Vicsekモデル | Vicsek |
| 2002 | NEAT | (同上) |
| 2010 | 粘菌(Physarum)のモデル | Physarum |
| 2011 | SmoothLife | SmoothLife |
| 2016 | 原始粒子システム | 原始粒子 |
| 2018〜19 | Lenia | Lenia |
| 2020 | ニューラルセルオートマトン | NCA |
| 2021 | EvoGym | EvoGym風 |
歴史から見えてくる3つの流れThree recurring themes
-
局所のルールから、全体のパターンが生まれる
ライフゲーム、Boids、Vicsek、原始粒子。80年たっても、「近くだけを見る、簡単なルール」から、全体の複雑な動きが生まれる、という発見は、ALIFEの核であり続けています。 -
離散から、連続へ
「生か死か」の2状態のマス目(ライフゲーム)から、滑らかな連続の世界(SmoothLife、Lenia)へ。世界を連続にすると、生き物のような、なめらかで有機的な動きが現れやすくなります。 -
人間が書くルールから、見つけ出すルールへ
初期のモデルは、人間がルールを考えました。シムズの進化、NEAT、ニューラルセルオートマトンと進むにつれて、ルールや体の形を、進化や学習の力で見つける方向へ、研究が動いてきました。
図鑑で追体験するならA suggested path
歴史の順に触ると、研究者たちの発見を、自分の手でたどることができます。おすすめの順番は、次のとおりです。
- グレイ・ウォルターの亀:光を見つけて近づき、電池が減ると小屋へ戻るのを眺める(1948年)。
- ライフゲーム:グライダーが動くのを確かめる。
- ワイヤーワールド:信号が回路を走るのを見る。
- ラングトンのアリ:1万ステップあたりで、何が起こるかを待つ。
- Boids:3つの規則の重みを変えて、群れの形が変わるのを見る。
- Gray-Scott:パラメータを少し動かして、縞と斑点の切り替わりを見る。
- Lenia:滑らかな「生き物」が動くのを眺める。
- ニューラルセルオートマトン:学習したルールが、形を育てるのを見る。
各ページの「使い方・理論背景」には、モデルの仕組みと参考資料をまとめています。
参考文献References
- Langton, C. G. (ed.) (1989). Artificial Life. Addison-Wesley (Santa Fe Institute Studies in the Sciences of Complexity).
- Langton, C. G. (1984). Self-reproduction in cellular automata. Physica D, 10, 135–144.
- von Neumann, J. (1966). Theory of Self-Reproducing Automata (edited and completed by A. W. Burks). University of Illinois Press.
- Turing, A. M. (1952). The chemical basis of morphogenesis. Philosophical Transactions of the Royal Society of London B, 237, 37–72.
- Gardner, M. (1970). Mathematical Games: The fantastic combinations of John Conway's new solitaire game "life". Scientific American, 223(4), 120–123.
- Dawkins, R. (1986). The Blind Watchmaker. Longman.
- Reynolds, C. W. (1987). Flocks, herds and schools: A distributed behavioral model. SIGGRAPH '87.
- Ray, T. S. (1991). An approach to the synthesis of life. In Artificial Life II. Addison-Wesley.
- Sims, K. (1994). Evolving virtual creatures. SIGGRAPH '94.
- Vicsek, T., Czirók, A., Ben-Jacob, E., Cohen, I., & Shochet, O. (1995). Novel type of phase transition in a system of self-driven particles. Physical Review Letters, 75, 1226–1229.
- Pearson, J. E. (1993). Complex patterns in a simple system. Science, 261, 189–192.
- Stanley, K. O., & Miikkulainen, R. (2002). Evolving neural networks through augmenting topologies. Evolutionary Computation, 10(2), 99–127.
- Jones, J. (2010). Characteristics of pattern formation and evolution in approximations of Physarum transport networks. Artificial Life, 16(2), 127–153.
- Schmickl, T., et al. (2016). How a life-like system emerges from a simple particle motion law. Scientific Reports, 6, 37969.
- Chan, B. W.-C. (2019). Lenia: Biology of artificial life. Complex Systems, 28(3), 251–286.
- Mordvintsev, A., Randazzo, E., Niklasson, E., & Levin, M. (2020). Growing neural cellular automata. Distill.
- Bhatia, J., et al. (2021). Evolution Gym: A large-scale benchmark for evolving soft robots. NeurIPS 2021.
- Levy, S. (1992). Artificial Life: The Quest for a New Creation. Pantheon.
hamzWorkerz ・ このサイトについて ・ プライバシーポリシー